鹿児島地方裁判所 昭和41年(ワ)64号 判決 1968年5月20日
原告
樫木三男
ほか一名
被告
大丸建設株式会社
主文
1 被告は
(1) 原告樫木三男に対し金四一九万〇、八七三円およびこれに対する昭和四一年三月六日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員
(2) 原告樫木勇夫に対し金三六万五、四〇〇円およびこれに対する昭和三八年九月一日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員
につきそれぞれ支払をせよ。
2 原告らのその余の各請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを二〇分し、その二を原告三男、その一を原告勇夫その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。
事実
(当事者双方の申立て)
一、原告三男
「被告は、原告三男に対し金四七四万四、五八〇円およびこれに対する昭和四一年三月六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言
二、原告勇夫
「被告は原告勇夫に対し金五〇万円およびこれに対する昭和三八年九月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言
三、被告
「原告らの各請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決
(原告両名の請求原因)
一、事故の発生
昭和三八年八月三一日午後六時四〇分頃、鹿児島県阿久根市西目字高之口付近国道三号線路上において、訴外小園重信の運転するダンプカー(以下被告車という)と原告三男運転にかかる小型貨物自動車(以下原告車という)とが衝突し、よつて原告三男は右上腕切創兼右大腿骨複雑骨折兼右下腿挫創腿挫傷兼脳出血兼右側頭部挫創の傷害を受け、右原告車が大破した。
二、被告の各原告に対する責任原因
(1) 被告は、土木建設請負業を営み、被告車を所有して、本件事故当時、被用者である前記小園を採石運搬のため同車の運転業務に従事させていた。
(2) 右事故は運転者である右小園の左記過失により発生したものである。すなわち前記小園は被告車を運転して前記国道上を阿久根市に向けて北上中、前方道路左側を進行している自転車四台を追越そうとして道路右側に出た際折から対向してきた原告車に自車右前部を衝突させたものであるが、同所は幅員約八・三五米、前方は約一〇〇米しか見透しのきかない約一、〇〇〇分の三七の上り勾配のコンクリート舗装された交通頻繁な場所であるから、このような場合、自動車運転者としては前方注視を怠らず、しかも警笛を吹鳴して自転車が道路左側に一列になるか又はそれに近くなるのを待つて追越す等自己の運転する車が道路中央線を越えないよう注意し、越えた時は直ちに左側に復元する等事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り漫然と道路右側に出、追越完了後直ちに左側に復元しなかつた過失により本件事故を惹起したものである。
(3) よつて、被告は原告三男に対し自己のために自動車を運行の用に供した者として自動車損害賠償保障法三条により、原告勇夫に対し使用者として民法七一五条により後記各損害を賠償すべき義務がある。
三、損害
(一) 原告三男の損害
1 財産的損害 合計金一八二万五、五八〇円
(イ) 療養費 金三五万四、〇六三円
内訳
a 入院費 金一一万二五三円
鹿児島大学付属病院(以下鹿大病院と略称)支払額金一万三、一〇〇円
同未払債務金九万七、一五三円
b 栄養費 金二一万三、七七〇円
山田医院入院中 金一、〇七〇円
鹿大病院入院中 金五、〇〇〇円
谷山病院入院中 金三、七〇〇円
相良病院入院中 金二〇万四、〇〇〇円
c 氷代(山田医院入院中) 金九二〇円
d 暖熱費(相良医院入院中) 金二万五二〇円
e 器具代 金八、六〇〇円
(ロ) 交通費(要看病のため) 金四万九、〇一〇円
内訳
山田医院入院中 金二、〇二〇円
鹿大病院入院中 金一万三、六八〇円
谷山病院入院中 金三、〇〇〇円
相良病院入院中 金三万三一〇円
(ハ) 休業による損害金一二二万二、五〇七円
すなわち、原告三男は本件事故当時、樫木商店に勤務し月額二万七、〇〇〇円の給与、ならびに夏期手当一月分年末手当二月分の収入を得ていたところ、本件事故による治療のため昭和三八年九月分から同四三年二月分まで計一八三万六、〇〇〇円の得べかりし収入を喪失したが昭和三八年一一月から昭和四三年二月まで鹿児島市から生活扶助として計六一万三、四九三円を受けたので右金額よりこれを差引いた額
(ニ) 弁護士手数料及び謝金 金二〇万円
謝金については、弁護士会の規約ないし慣行により裁判所の認容額の一割をその額とし、原告三男とその訴訟代理人間に成功報酬契約がなされている。
2 精神的損害 金二九一万八、〇〇〇円
すなわち、原告三男は前記受傷により一時精神障害を呈し、一三回に及ぶ手術の苦痛は筆舌に尽しがたく、骨折した右足は短かくなりびつこを引き股・膝・足等の関節は拘縮し既に二年半に及ぶ入院加療にもかゝわらず、今尚廃人同様であつて同原告を支柱とする同原告の家庭は破壊され保護家庭に転落し、将来の生活設計も立たない状態である。従つて、その慰藉料の額は金三〇〇万円が相当であるところ、原告三男は被告から見舞金として昭和四〇年五月に五万円、同年七月以降同四三年二月迄毎月一、〇〇〇円宛合計三万二、〇〇〇円の支払を受け、これを慰藉料に充当したので、右慰藉料額よりこれを控除した額
(二) 原告勇夫の損害
原告勇夫は昭和三七年一一月一四日鹿児島プリンス自動車株式会社から原告車を代金九〇万五、三五一円、同年一二月二〇日から同三九年七月二〇日まで二〇回払、所有権留保特約つき割賦売買契約により買受け、直ちにその引渡しを受けてこれを使用していたところ、本件事故により同車は修理による復旧不能なまで大破され、そのため原告車を右売買直後の引渡時から自動車代金完済時まで使用し、右代金完済時にその所有権を取得する内容の鹿児島プリンス自動車株式会社に対する原告勇夫の債権が侵害される結果となつた。そうして危険負担の原則により同原告が前記割賦代金の支払を免れ得ない以上右債権侵害により原告勇夫の蒙つた損害は本件事故直前の原告車の時価相当の六一万七、〇〇〇円というべきところ、事故後同車を他に金四万円でスクラツプとして売却処分したので、これを控除した残額金五七万七、〇〇〇円の内金五〇万円を請求する。
四、そこで、被告に対し、原告三男は前項(一)記載の金額の合計金四七四万三、五八〇円と、これに対する履行期後で、本件訴状送達の日の翌日である昭和四一年三月六日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告勇夫は前項(二)記載の損害内金五〇万円とこれに対する事故発生の日の翌日である昭和三八年九月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の答弁および抗弁)
一、答弁
(1) 請求原因一の事実は認める(ただし、傷害は大腿骨複雑骨折等)
(2) 同二の(1)の事実は認める。
(3) 同二の(2)の事実中、衝突現場の道路が幅員約八・三五米約一、〇〇〇分の三七の上り勾配のコンクリート舗装であり訴外小園が被告車を運転して原告ら主張の自転車四台を追越そうとした点は認めるがその余は争う。
(4) 同三の(一)、1、(イ)ないし(ハ)の事実は争う。
同(二)の事実中、原告三男とその代理人間に成功報酬契約がなされたとの点を否認し、その余は認める。同三の(一)2の事実中、被告が原告三男に対し見舞金八万二、〇〇〇円を支払い、これが慰藉料に充当された点は認めるが、その余は不知。
被告らは入院中の原告三男を度々見舞い、前記の見舞金を支払う等慰藉の誠意を尽くし、示談交渉にも及んだのであるが、金額が折合わず調停申立をなしたが不調に終つたので、金五〇万円を供託したものである。
(5) 同三の(二)の事実はすべて争う。原告勇夫主張のごとき債権は存在しないし、その価額が本件事故直前の原告車の価格であるいわれはない。
二、抗弁
1 本件事故は、原告三男の運転上の過失のみに起因するもので、訴外小園には過失はなく同人および被告において運行上の注意を怠らなかつたし、被告車には構造上の欠陥又は機能上の障害はなかつたのであるから被告には本件事故について責任はない。
すなわち、小園は被告車を運転して本件自転車四台の追越しをはかつた際、一時被告車体の一部が道路中央線を越えたが、警笛を鳴らし自転車群に注意した後、道路の左側運転の正常状態に復しておりその速度も時速三五ないし四〇キロメートルであつたが、原告三男は飲酒の上原告車を運転して被告車の反対方向から時速六〇ないし七〇キロメートル以上の高速度でセンターラインをまたぐか越えた状態のまゝ猛進してきたため、被告車の至近距離に迫つてから僅かに道路左側に寄つたのみで被告車を避け得ず、小園が被告車のハンドルを左に切りブレーキを踏んだにもかゝわらず本件衝突事故を惹起したものである。
2 仮りに、被告に本件事故による損害賠償義務があるとしても、原告三男には前記過失があるのであるから原告両名の損害額の算定についてこれを斟酌すべきである。
(原告の答弁)
被告主張の抗弁事実はすべて否認する。
(証拠関係)〔略〕
理由
一、請求原因一の被告軍と原告車の衝突ならびに原告三男の受傷および原告車の破損の事実は当事者間に争がなく、原告三男と被告との間で、右傷害の部位程度が同原告主張のとおりであることは被告もこれを明らかに争わないのでこれを自白したとみなすべきである。
二、1 〔証拠略〕を総合すると、本件事故の発生した道路は、その現場附近において、幅員約八・三五米でありその中央には中心線が画されたコンクリート舗装の南北に走る道路で本件現場から北方(阿久根市方面)約七〇米まで昇り勾配約一、〇〇〇分の三七の直線で(この点は当事者間に争がない。)、その先は下り勾配約一、〇〇〇分の七の下り坂でありその頂上附近で北方に向つて右側にゆるく曲つておりそのため右現場から北方への見透しは右頂上に至る約七〇米であつて、交通量はかなり多いこと。
訴外小園は被告車を運転して、この道路左側を時速約三五ないし四〇粁の速度で鹿児島市方面から阿久根市方面に向つて北上中、衝突地点から約三〇米手前で道路左側を同方向に向つて二列に並んで進行中の自転車四台を約二〇米先に発見し、これを追越そうとして、漫然と道路中央線を越え道路右側約三分の一(約一・四米)まで侵入して進出したところ前記の峠を越えて時速約七〇粁米の速度で道路中央線をまたぎながら南下してくる原告車を約八〇米の距離で発見し危険を感じて軽くブレーキを踏んで原告車の動きを注視したこと。前述のように当時道路左側を自転車隊が走行していたので小園としては、これを十分に追越していないと判断したことからハンドルを切つて道路左側に復元し避護することができなかつたこと、原告車がそのまゝの速度で道路中央線寄りに被告車へ接近してきたので小園はあわてゝ急ブレーキをかけると同時にハンドルを左に切つたが間にあわず衝突したこと、右衝突現場路面には被告車によつて印された東側三・九米、西側四・八米の二条のスリツプ痕が残されていること、他方原告車は衝突地点の手前約一〇米位のところに迫つて急ぎハンドルを左に切つたがブレーキをかけた形跡がなく、殆んど減速することなく進行したため前記のように道路中央線を大きく越えて侵入していた被告車と衝突したこと、両車の衝突箇所は、被告車の右前部と原告車の右前部附近であつて原告車の破損程度は被告車に比し極めて大きく殆んど前部は大破していることがそれぞれ認められる。右認定に反する証人小園重信の供述部分は前掲各証拠に比照して信用することはできないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定の事実によれば小園は自動車運転手として前記自転車隊を追越すに際し、前方注視を怠らず、前方約一〇〇米しか見透しの利かない坂の向うから現われる対向車のあることを考慮し、警笛を吹鳴して自転車隊を道路左側に十分に避譲させた後、追越しをはかり被告車が道路中央線を越えないよう注意し、越えた時は直ちに左側に復元する等道路区分を遵守すべき業務上の注意義務があつたのにこれを怠り漫然と道路右側に大きく進出した過失により本件事故を惹超したものというべきである。しかし他面原告三男においても、原告車を運転して南進し前記の坂を昇り切つた際、前方を注視しその前方約八〇米先に道路中央線を大きく越えて自車側道路区分に侵出している被告車に気付くべく、これに気付いた時はブレーキをかけて減速し或は道路左側にハンドルを切つて寄るなどの措置をとつて被告車との衝突を避ける注意義務があつたというべきところ、漫然と道路中央線をまたぐか、道路左側を中央線寄りに殆んど減速せずそのまゝ直進し衝突直前において漸くハンドルを左に切つたか及ばず本件事故の発生をみたと解するのが相当であるから原告三男にもまた運転上の過失を免れない。
2 被告会社が土木建設請負業を営み、被告車を所有して、本件事故の際、被用者である小園をして同車の運転業務に従事させていたことは当事者間に争いがない。してみると、被告は自己のために自動車を運行の用に供する者に該当し、本件事故は自動車の運行によつて他人である原告三男の身体を害した場合に外ならない。さらに被告の主張する同条但書の規定による免責の抗弁も前段認定のとおり訴外小園の過失がその重大な一因をなしている以上、その余の点につき判断するまでもなくその理由がないので、被告は自賠法三条本文により本件事故によつて生じた原告三男の損害を同原告に賠償すべき義務がある。さらに原告勇夫の損害は被告の事業の執行につき加えられた損害というべく、被告は民法七一五条により使用者として同原告にこれを賠償すべき責を免れない。
三、そこで原告らが蒙つた損害およびその額について判断する。
1 原告三男の財産的損害
(イ) 入院中に支出した療養費および交通費
〔証拠略〕によれば、原告三男が本件事故によつて前記傷害を受けた結果山田医院(昭和三八年八月三一日から同年九月一七日まで)鹿大病院(同年九月一七日から同年一〇月二四日まで)、谷山病院(同年一〇月二四日から同年一一月一八日まで)相良病院(同年一一月一八日から同四二年二月末まで)に入院し、左記各額の費用を要したことが認められる。他にこの認定を動かすに足りる証拠はない。
a 鹿大病院の入院費用金一一万〇二五三円(但しこの内金九万七、一五三円は債務の負担)
b 山田、鹿大、谷山、相良各病院入院中における栄養費(牛乳、卵、果物等)金二一万三、七七〇円
c 相良病院入院中における暖熱費(煉炭代)金二万〇五二〇円
d 各病院入院中における器具代(尿器、氷枕、円座)金八、六〇〇円
e 妻看病のために要した通院費 金四万二、七四〇円
(山田医院入院中金二、〇二〇円、鹿大病院入院中すくなくとも金七、四一〇円(タクシー三八回、一回片道一八〇円宛六、八四〇円、電車三八回、一回一五円宛五七〇円)谷山病院入院中金三、〇〇〇円(タクシー三回往復一回片道五〇〇円宛)、相良病院入院中すくなくとも金三万〇三一〇円(電車一回当り一五円宛六六五日分往復一万九、九五〇円、一回当り二〇円宛二五九日分一万四〇〇円))
(ロ) 休業による損害
〔証拠略〕によれば原告三男がその勤務先の原告勇夫経営にかゝる樫木商店に勤務中月額金二万七、〇〇〇円の給与のほか夏期手当一月分年末手当二月分を得ていたが、本件事故により仕事を休んだ結果、昭和三八年九月から同四三年二月までの給与とその間の夏期および年末手当金一八三万六、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を蒙つたことが認められる。もつとも同原告の自陳によれば右休業期間の昭和三八年一一月から同四三年二月まで鹿児島市から生活扶助費として金六一万三、四九三円の給付を受けたから、右金一八三万六、〇〇〇円よりこの金六一万三、四九三円を差引いた金一二二万二、五〇七円を休業により原告三男の蒙つた損害として請求しているから、その理由のあること明らかである。
(ハ) 弁護士手数料および謝金
〔証拠略〕によれば、原告三男はその妻ムツ子を代理人として本件訴訟を弁護士である原告三男訴訟代理人に依頼したこと、その際手数料として着手金三万円を支払い、あわせて、弁護士会の規約ないし慣行による金額を報酬額とする成功報酬契約をなしたことが認められる。右の額が裁判所による認容額の約一割であることは当裁判所に顕著な事実でありその他諸般の事情を考慮すると弁護士手数料および謝金として原告三男か支出を余儀なくされた金額は金二〇万円が相当と認められる。
(ニ) 原告三男その余の主張費用額はこれを認めるに足る証拠がない。
以上のとおりであるから本件事故による原告三男の蒙つた財産的損害は金一八一万八、三九〇円となる。
2 原告勇夫の財産的損害
〔証拠略〕によれば、原告車は昭和三七年一一月一四日原告勇夫が鹿児島プリンス自動車株式会社から割賦売買契約により買受け、その引渡しを受けて使用していたのであるが、本件事故当時、その所有権は割賦金未済のため未だ鹿児島プリンス自動車株式会社に留保されていたこと、しかも同原告の使用中における破損滅失等による損害は買主において一切負担し、かつ、未払債務をも支払わねばならない契約であつたこと、本件事故直前の同車の価値は金五六万二、〇〇〇円相当であつたこと、本件事故による同車の破損程度は修理による復旧が不能なまでに大破されたことがそれぞれ認められこれに反する証拠はなく、本件事故後同車が金四万円でスクラップとして他に売却処分されたことは、原告勇夫の自陳するところである。従つて、以上の事実関係から見ると、本件事故による原告車の破損による損害額は原告車の事故直前の価格より右売却処分の価格を控除した残金五二万二、〇〇〇円と認めるのが相当であり、かつ、それは上記割賦販売契約の危険負担をする前記買主である原告勇夫が受けた損害と解するのが相当である。被告は原告勇夫は原告車の所有権留保付割賦売買における買主にすぎないから、同原告は同車に対する如何なる権利を侵害されたか不明である旨極力抗争するが、もともと民法七〇九条にいわゆる権利侵害の「権利」とは、法律上保護すべき利益と解されるのであつて、原告勇夫において買主としてその危険を負担すべき地位にあること明らかな本体においては、原告が法律上その利益を侵害されていること明白で主張は理由がない。
3 以上認定したとおり本件事故により原告三男は金一八一万八、三九〇円の財産的損害を、原告勇夫は金五二万二、〇〇〇円の損害を蒙つたものというべきであるが、本件事故の発生については、すでに認定したとおり原告三男にも過失があり且つまた原告三男は原告勇夫の篏用者であるから原告勇夫についてもいわゆる被告者側の過失として右原告三男の過失を斟酌するべく、その過失の比率は前示認定の事実関係からみて訴外小園が七、原告三男が三と解するのが相当である。そこで右過失を斟酌すれば原告三男の財産的損害および原告勇夫の損害中、被告に賠償の責を負わせる範囲はそれぞれ金一二七万二、八七三円と金三六万五、四〇〇円をもつて相当と考える。
4 原告三男の精神的損害
つぎに〔証拠略〕によれば、原告三男は、前記受傷により一時精神障害を呈し、現在正常に戻つたものの前記傷害を治療するため一〇数回に及ぶ骨折手術と二年半にわたる入院治療にもかかわらず、右大腿骨骨折等により右足は六糎短かくなつてびつこを引き、右股、膝、足の関節は拘縮し、その機能回復の見込みもなく、腰も殆んど曲らず歩行困難であつてこれら後遺症のため殆んど廃人に近いこと、原告三男の家庭は同人が樫木商店の運転者として働きながら平和な安定した生活を営んでいたところ、本件事故のため破壊され、医療保護、生活保護の受給と妻の内職によりその日の生計を維持する窮状に陥つたこと、原告三男の看病等のため同原告の母石原アキエも病床に就くに至つたことが認められる。しかしながら原告三男にも前示認定のとおり本件事故の発生について過失がある。そのうえ〔証拠略〕によれば原告三男は右事故の際、酒気を帯びて運転していた疑いもあるので、以上の事実を本件事故の原因、態様その他本件記録にあらわれた諸般の事情に斟酌して彼此考慮すれば、原告三男が受けた苦痛に対する慰藉料は金三〇〇万円を相当とするところ、原告三男は被告から見舞金として合計金八万二、〇〇〇円の支払を受けこれを慰藉料に充当したことは当事者間に争いがないのでこれを控除すればその残額は金二九一万八、〇〇〇円となる。
四、してみると被告は、原告三男に対し財産的損害金一二七万二、八七三円と慰藉料金二九一万八、〇〇〇円の合計金四一九万〇八七三円およびこれに対する本件事故発生の前記日時以後であることの明らかな昭和四一年三月六日以降右支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告勇夫に対し金三六万五、四〇〇円およびこれに対する本件事故発生の翌日である昭和三八年九月一日以降右支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。
五、よつて原告等の請求を右の限度において正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文、九三条一項但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本敏男 吉野衛 三宮康信)